およそ十数年続けてきた、師が名誉委員を務める
栃木県美術作家連盟による「栃木県展」。
僕の都合により、
染め教室の閉鎖と共に県展への挑戦もラストイヤーとなりました。
振り返ると、修行の翌年から挑戦させていただき、
数年後に会員推奨、生徒にも挑戦権を与えて共に挑んで来ました。
僕の性格上、自分の物より人の物が好きで、大切で、
きっと僕の県展制作を目の当たりにした生徒はいないはず。
それほど、毎年県展に向き合ってくれる生徒の姿が嬉しくて、
楽しくて心がときめいていました。
出来上がった生徒の作品は全て僕の作品でもあり、
どれも愛おしく今でも心に咲いています。
最後の挑戦を締めくくるべく、
長年の目標の一つであった栃木県展の会場へと足を運んだ。
県展最終日である当日。
始発で向かえばちょうど表彰式の時間に間に合うのでそのプランを実行。
暑いのは百も承知。
呉服屋 兼 染物家としての誇りをもって着物を身に纏(まとい)ました。
あいにく、その時間は見慣れた緑の案内、準急がなく、
いつもなら15分以内の到着駅が30分掛かる。
すでに麻の襦袢は湿っており、首筋から汗が滴る。
袂(たもと)から手拭いを出し、汗を拭う。
もうそれも慣れた。
暑いとは思わない、当たり前なんだと思える。
着物はこの季節も着れる大島紬に、羽織も透けた大島。
角帯は単衣仕立ての博多献上。
そのそれぞれに、
「たくさん汗ごめんね。今日一日頑張ろうね。」
と心の中で声を掛けて時間をやり過ごす。
ふと、不思議な感覚になった。
一五年前、
母から預かったカバンを肩に掛け、
スニーカーにジーパン姿で栃木に行った。
呉服屋の事など何も分からなかった一五年前の自分も、
こうして電車に揺られていたんだなと。
その時は何を考えていたんだろう?
一五年前の自分は何を考えていたんだろう?
決して全てが順風満帆ではなかった。
〜いろんなことをおもいだしながら ときをすごした〜
人って変われるんだなと、そっと笑みを浮かべた。
生徒の一人が同行とあり、途中の地下鉄で無事合流。
昨晩から緊張していた脳が少しほころぶ。
十時前に県展会場がある栃木県・宇都宮に到着。
「あら 涼しい。」
大阪の五時台より圧倒的に涼しく、だが、
どうやらそれは数日前からだと、この後多くの方から聞いた。
会場に着くとすでに会長挨拶が始まっており、そそくさと空いた席に着席する。
ここでも手拭いがよき相棒だ。
表彰式が終わり、忙しそうな師に軽く挨拶をすませ、
生徒と共に展示会場を巡った。
日本画・洋画・工芸美術・書
それぞれのブースに受付があり、会の皆様が優しい空気で接して下さった。
それは修行時代に触れた下平先生のご家族の空気感と同じだった。
栃木の方々は本当に柔らかく、優しい。
日本画、書、その他ブースでも、
先生方が熱心に技法を説明して下さって、大いに勉強になった。
こちらの言葉で表すと、「儲かりまくった」わけであります。
師への挨拶でちらっと目に入った工芸美術のブースでしたが、
じっくりと見る、それは最後にと決めていた。
自分の生徒たちの作品は一番最後にと。
展示片付けを終え、下平先生ご家族と夕食へ(ご馳走様でした!)、
その後ホテルで一泊。
翌日、もう一つの目的であった先生の工房見学へ。
(Iさん、送迎本当に有難う御座いました!)
僕の生徒へご指導下さっている先生を遠目に、
あぁ、もう一つの目標が叶ったんだなと、そう感じました。
下平先生はやはりあの頃と変わらず、燃えたぎっていました。
帰路へ。
ずいぶん昔に母からプレゼントしてもらったぴちぴちのTシャツを着て
新幹線に乗ったら寒いのなんのってw
そういえば行きの新幹線は快適だったな、なんて考えていたら夢の中でした。
その時の夢は内緒にしておきましょう。
ただ、夢中で何かを探していた、とだけ記します。
長いようで短い教室でした。
先の見えないトンネルに入っているような時期もありました。
なくすのはさびしいようで、さびしいようで、さびしい。
だけど、次の目標に真剣に向き合えば何事も成せると、今なら分かる。
なぜかって?
「人は必ず変われるから。」
それが僕が教室のみんなに教えてもらったことだから。
~ fin ~
*気持ちが高ぶっていたのか展示中の自分が「良い!」といった写真を撮り忘れました
生徒たちの作品、以下、自宅内での写真になります 全体を写せず申し訳ない!
~ ayako 丸い心 ~
絹 八寸帯
僕が教室を開いた時からの一番弟子。
一番最初に門を叩いてくれて、一番最後までいて下さいました。
この方がいなかったら僕の教室は成り立っていません(金銭面でもねw)。
思い返せば、県展へは九年前から挑戦して下さっています。
「先生大好き!」と時折言ってくれますが、僕の方が大好きです。
今度抱きしめてやろうと思います。ウソです。
空海展に行かれた時にインスピレーションを受けた図案にて。
麻地 タペストリー
気付いたら十年経っていましたね。
教室のみんなをまとめてくれる行動派。
気遣いに長けた優しい優しい方です。
何かの美術展に行ったら、必ず僕にパンフレットを見せて共有して下さる。
それを見た僕は次への勇気をもらえる。与える側、そんな方です。
今度抱きしめてやろうと思います。ウソです。
作品をよく見ると、フクロウの顔や葉っぱがあり、森がテーマになっていますね。
麻に植物染料(カテキュー)と、難しい染め方に挑戦してくれました。
~ yumi 晴れやかなる交感 ~
麻地 三連タペストリー
僕が教室をやめても染物を続けると言ってくれました。
なので今後のため、勉強のため共に県展へ。
民藝が好きで、畑が好きで、柔らかく純粋な方です。
三連それぞれに色のテーマ分けがされていて、
それは簡単なように見えてとても難しい事。
膨大な仕事量と共に、よく頑張ってくれました。
今度抱きしめてやろうと思います。ウソです。
図案は畑で出会ったカメムシだそうですw
さてさて、駆け足でブログにまとめましたが、
最後に、
栃木県美術作家連盟の皆様、今まで大変お世話になりました。
総会に一度も出席せず、搬入出、陳列の手伝いも一度も参加せずに、
本当に申し訳なく思っております。
これからも連盟のさらなる発展を大阪の地より願っています。
至らぬ点ばかりでしたが、本当に有難うございました。
会へ参加できた事を心から誇りに思います。
PS.生徒たちへ
偉そうにも先生なんて立場でやってきました。
ですが、何度でも思うのは、卒業していった子ども達、大人達、
今いる生徒、その全てに僕が救われてきました。
与えられ、教えられていたのはいつも僕の方。
ぬくもりのある教室に育ててくれて有難う!!
心から感謝致します。
次郎