平成二十七年
〜 きもの処あだち 新作小千谷ちぢみ 〜
着物ファンにとってこれほど頼りになる天然素材も稀であろう。
日本の四季、夏を担う麻織物。
言い換えれば、その季節でしか味わえぬ質感であり、存在とも言える。
透け感はあるが、麻繊維独特の強さがあり、それを利用して見事にシボとして織り成されている。
ゴワつき感があるかと思えば、それが実に肌との距離を的確に保ち、涼やかな風が身体を通り抜けて行く。
僕は小千谷の着物には長襦袢も麻と決めている。
独特のシャリッとした質感をより肌に感じる。
連投ならば、自分の感性では涼やかと言われる絞りの浴衣より麻である。
長襦袢一枚分を感じさせないのは元より、何よりも驚きの速乾性。
以前にしっかりと経験している。
〜〜〜〜〜
自身のお披露目展に向けて。
約一ヶ月ほど掛けて、朝から晩までお客様宅へ挨拶回りに行かせて頂いた。
車移動。
強い陽射しが降り注ぐ、真夏の暑い、暑い日が続いていた。
呉服屋に入って半年ほどしか経っていない最中、言うに及ばず着物歴は短い。
初めて着物で過ごす夏でもあった。
慣れぬ着姿でもあり、帰宅すれば毎日汗だく。
それこそ、着物の一部分を握れば汗が滴り落ちるほどであった。
汗を拭う手拭いは毎日三〜四枚は消耗した。
自分はそれ程汗かきなタイプではなく、今で思えば緊張もあったのであろう。
また明日も。また明後日も。
その日の晩に僕の小千谷を洗濯し、干してくれている妻がいた。
着物歴が短いと言う事は、手駒が少ない事を意味する。
涼しい事以外にも、乾きやすいと言う麻織物の恩恵がある事をこの時初めて知る。
いや、厳密には知識の中にはあった。
しかし実際には驚愕の速乾性。これ程までとは思いもよらなかった。
やはり経験。半年間で詰め込んだ、「染め」「織り」「産地」「素材」の全てが無意味にさえ思えた。
早く着物の知識を身に付けて、商いの三代目として先頭に立ちたいと言う思い。
それは、うぬぼれでした。
生き急いではいけない。ゆっくり、じっくり。分からない事は分かる時まで待てばいい。本物になりたい以上、嘘で固める自分はいらない。
無理やり詰め込んだ知識より、何より経験が大切であり、この後に染め修行へ行く決心に繋がった。
「百聞は一見に如かず、されど百見は一行にしかず」
この時より僕が想う言葉となりました。
また明日も。また明後日も。
約一ヶ月間、暑い、暑い夏の陽射しに答える身体。頑張って頑張って放熱する。
それを惜しみもなく吸い取り、次の日にはまた同じ表情で自分の着物が迎えてくれる。
今日もくたびれる事なくシボが立っている。
「よし!今日も行くんだ!」
古より伝わる先人の知恵が、僕の身体を守ってくれたんだ。
実に、一枚の小千谷で過ごした、暑い暑い夏の日々でした。
〜〜〜〜〜
一枚目の藍色は、僕が一目惚れで仕入れた小千谷ちぢみ。
春の新緑に映える朱と共に、夏の陽射しを受ける藍色はまた格別だ。
この濃度が、涼やかに、優しい風の印象を与えてくれる。
琉球の帯を合わせ、足袋と半衿は飾らず麻に。
帯締め・帯揚げには緑と黄を。帯留めに少し濁ったガラス玉かゴツっとした陶器。
これで僕の大好きな民芸調の出来上がりである。
そんな着姿を想像するだけで、惚れ惚れしてしまう。
付け加えるなら、扇子はより濃度の低い藍色を。扇ぐ時に袖口からちらりと見える長襦袢は、スカッと白がよろしいかと。
見え隠れする白がより藍の濃淡を際立たせる。
そんな演出が美しくないはずが無い。
*ちなみにお嬢コーデはこの様になっております→きもの処あだちHP
さて、今年も暑い夏がやって来る。
毎年訪れてくれる自然の循環。地球の呼吸、日本の四季。
着物ファンには欠かせない小千谷のシーズンが始まります。
僕も、大切にしまってある相棒を箪笥の中から引っ張り出すと致しましょう。
江戸時代初期、播州明石から来たといわれている堀次郎将俊が、それまでの越後麻布に改良を加えて完成したのが小千谷縮です。しぼのある独特の風合いで高い評価を得、昭和30年(西暦1955年)、国の重要無形文化財に指定されています。
その技法を生かして織り始めたという小千谷紬も、昭和50年(西暦1975年)に伝統的工芸品に指定されています。
小千谷縮の材料は苧麻(ちょま)という上質の麻です。これを細かく砕いてつなぎ合わせ、一本の長い糸を作ります。準備された経糸(たていと)に、模様付けされた緯糸(よこいと)一本一本柄を合わせながら丹念に織ります。一尺織るのに900回も手を動かすといいます。
織り上げられた反物は、地を白くするために雪の上でさらされ、完成します。この雪さらしは、小千谷に春を呼ぶ風物詩です。
*小千谷市HPより抜粋
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