2015年7月9日木曜日

Aine




〜平成二十六年十月十七日〜平成二十七年現在〜


去年から取り組んで参りました、当教室において最も古株の生徒さんの作品です。

図案の構想から半年以上。

想いのある名で全体を埋め尽くし、少しづつ、焦らず丁寧に形を作り、そして彫り進めました。

そんな型紙もようやく紗張りを得て完成。

現在は試し染めの真っ只中と言ったところです。



〜〜〜〜〜



僕なんかより遥かに着物歴が長く、染め、織り、然り。

好きな目として見て来たキャリアが違う。

変わり者と言うだけなら負けませんが、この方が持っている物を見抜く目には何か一歩、僕には足りない。


「こんなの買って来たの!見て見て!」


そんな言葉を聞いた時は、十中八九、僕の目は癒される。

その、物を見る目が審美眼と言うのなら、やはりそれは自分のセンスが大半を占める気がする。


それを目の前にし、何も感じず、永遠に感じない感性もあるだろう。

そんなセンスだってきっとある。

否定はしない。


そしてそれが欲求になり、自分を豊かにする術である事を知っている。

それを無邪気に、無で表現出来るのが羨ましい。

この方の感性を見ていると、自然とそう感じる。


一歩も二歩も、僕は及ばない。


呉服屋に入りたての頃に見たこの方の着物の姿=コーディネートは、今でも僕の礎だ。



〜〜〜〜〜



そんな生徒さんとあって、独自の世界観をお持ちです。


最初から模写を嫌い、型の特性を気にせず、自分の自由を表現する。


言うなれば物作りが好きなのであって、それに至る工程に染めが付いてきている。

そんな感覚。

裏を返せば実に先生泣かせの生徒さんでもあります。


最初から勉強を嫌い、型を理解しようとせず、ルールを守らない。


子供の様な時があり、何故、理解出来ないのかが分からず、ぶつかり合う時もある。

そんな感触。

だからこそ、今回のチャレンジは本当に嬉しく思う。

文字を題材にしたいと聞いた時に、これはチャンスだとピンと来た。

せっかくなら、やはり本質を学んで欲しい。

手本として差し出したのは芹沢銈介氏の「いろは文」。

文字による構成、バランス、そして配色。

それは型を学ぶ事への理想であり、数ミリでの接点、繋がりの有無、鋭角、鈍角の線、配色のバランス。

吸収するべき全てが備わっている。

今回はわずか四文字での構成。

図案には相当苦労し、終盤には嫌な顔も見え隠れしています。

しかし、半年以上の時間を費やして彫り終えた型紙を前に、実に誇らしげな生徒さんの表情がそこには映っています。

事実、彫り終える頃の切れ味鋭い線は、紛れもなく型絵染めの特徴の一つである、引き彫りの線である。

スパッと美しく、それはやがて糊へと受け継がれる。

僕にとって、一つの作品に何年もの時間を費やす事は苦ではない。

しかし、皆んなが皆んなそうとは限らない。


一番の命である図案。そして彫り味。

掛ける時間だけが労では無く、掛かる時間だけもが、労では無い。

本当に本当に苦労しました。

その労が作品へと昇華します。





〜お孫さんの名を冠する染物〜

「Aine」













愛情が形になる瞬間を見れて僕は幸せです。

そして、何より誇らしく思う。








0 件のコメント:

コメントを投稿