〜平成二十六年十月十七日〜平成二十七年現在〜
去年から取り組んで参りました、当教室において最も古株の生徒さんの作品です。
図案の構想から半年以上。
想いのある名で全体を埋め尽くし、少しづつ、焦らず丁寧に形を作り、そして彫り進めました。
そんな型紙もようやく紗張りを得て完成。
現在は試し染めの真っ只中と言ったところです。
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僕なんかより遥かに着物歴が長く、染め、織り、然り。
好きな目として見て来たキャリアが違う。
変わり者と言うだけなら負けませんが、この方が持っている物を見抜く目には何か一歩、僕には足りない。
「こんなの買って来たの!見て見て!」
そんな言葉を聞いた時は、十中八九、僕の目は癒される。
その、物を見る目が審美眼と言うのなら、やはりそれは自分のセンスが大半を占める気がする。
それを目の前にし、何も感じず、永遠に感じない感性もあるだろう。
そんなセンスだってきっとある。
否定はしない。
そしてそれが欲求になり、自分を豊かにする術である事を知っている。
それを無邪気に、無で表現出来るのが羨ましい。
この方の感性を見ていると、自然とそう感じる。
一歩も二歩も、僕は及ばない。
呉服屋に入りたての頃に見たこの方の着物の姿=コーディネートは、今でも僕の礎だ。
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そんな生徒さんとあって、独自の世界観をお持ちです。
最初から模写を嫌い、型の特性を気にせず、自分の自由を表現する。
言うなれば物作りが好きなのであって、それに至る工程に染めが付いてきている。
そんな感覚。
裏を返せば実に先生泣かせの生徒さんでもあります。
最初から勉強を嫌い、型を理解しようとせず、ルールを守らない。
子供の様な時があり、何故、理解出来ないのかが分からず、ぶつかり合う時もある。
そんな感触。
だからこそ、今回のチャレンジは本当に嬉しく思う。
文字を題材にしたいと聞いた時に、これはチャンスだとピンと来た。
せっかくなら、やはり本質を学んで欲しい。
手本として差し出したのは芹沢銈介氏の「いろは文」。
文字による構成、バランス、そして配色。
それは型を学ぶ事への理想であり、数ミリでの接点、繋がりの有無、鋭角、鈍角の線、配色のバランス。
吸収するべき全てが備わっている。
今回はわずか四文字での構成。
図案には相当苦労し、終盤には嫌な顔も見え隠れしています。
しかし、半年以上の時間を費やして彫り終えた型紙を前に、実に誇らしげな生徒さんの表情がそこには映っています。
事実、彫り終える頃の切れ味鋭い線は、紛れもなく型絵染めの特徴の一つである、引き彫りの線である。
スパッと美しく、それはやがて糊へと受け継がれる。
僕にとって、一つの作品に何年もの時間を費やす事は苦ではない。
しかし、皆んなが皆んなそうとは限らない。
一番の命である図案。そして彫り味。
掛ける時間だけが労では無く、掛かる時間だけもが、労では無い。
本当に本当に苦労しました。
その労が作品へと昇華します。
〜お孫さんの名を冠する染物〜
「Aine」
愛情が形になる瞬間を見れて僕は幸せです。
そして、何より誇らしく思う。
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