一目見た瞬間に吸い寄せられ、そして思わず触れてしまった。文字通り、固唾を飲む。
その場で生地と遊んで10分は経過しただろうか。
手の甲に生地を乗せ、手のひらで生地を転がし、指先で厚みを感じ、幾度となく、生地の質感を楽しんだ。離れようとしても、独特のまとわりついてくるような手触りがそれを許してくれない。
「なんなんだこれは。こんなものが存在するのか。」
ファーストインプレッションは脳にこのような言葉が現れ、そして喉元をいくばくか固い液体が流れ込んだ。
落ち着いた頃合いに、本来の幼稚な僕の頭で表現するならば、ティッシュに近い感触だ。
それも光沢がある分、なんらかの生命力が感じられる。そして軽い。
厳密に言えば軽いではなく、「軽ささえ感じない」が正しいかもしれない。
もっとこの子を知りたい。そんな欲求が高まる。
手に取ったのは先月号の「花saku」(リンクあり)。
そう。10月号には作り手であるメーカー、貴久樹(きくじゅ)さんが特集されているのだ。
ゴールデンムガの説明文にはこうある。要約してみよう。
「ムガ蚕は野生のものなので養蚕(ようさん)は難しいとされる。餌となるのはインドアッサム地方にだけ生息する樹木、ソムとソアレの葉。アッサム地方の森でムガ蚕を採取する。」
「幼虫はアッサム地方特有の気温と湿度のせいで病気になりやすく、ほかの昆虫から攻撃を受けやすいデリケートな蚕だ。そのため、ムガ繭の大量採取は難しく、貴重なシルクといわれてきた。」
「ムガ蚕は4〜6センチの大きさで、最初は白っぽい色合いだが、徐々に黄金色へと変化していく。」
「野蚕(やさん)の糸の繊維は均一ではなく、独特の風合いを持つ。養蚕の糸と異なる大きな特徴は繊維の構造にある。養蚕の繊維はちくわのように中心に穴が一つあるが、野蚕糸はレンコンのように複数の穴があいている。それゆえ軽くて、保湿性、通気性、保温性にすぐれているのだ。」
なるほど。やはり事には理があるものだ。
しかし養蚕と野蚕で異なる繊維の構造への興味は尽きない。
調べて出るものなのか、はてさて人類学では未知の領域なのだろうか。
いや、待てよ。この子の全てを知るにはあまりにも早すぎて、勿体無い気がしてきたぞ。
未だ解明されていない。を知った瞬間に落胆するのが目に見えている。
ならばそっとしておこう。
その方が妄想という旅が面白いではないか。全てを瞬時に知ろうとする自分の悪い癖である。
自分の中でこの部分は、あえて「ゴールデンムガの神秘」として無知のままでいようと思う。
その方がずっとロマンに溢れているではないか。
ゴールデンムガ・インド手刺繍 訪問着
ナッチュラルタッサー 無地着尺
*こちらは緯糸(よこいと)に野蚕糸を織り交ぜています。野蚕糸の中でも特に光沢と風合いに優れた天然のタッサーシルク。独特のシャリ感と光沢が特徴的です。
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